なぜか浮かんだ、懐かしい「縁日」の光景
「ん? 美味いな」
ふだん甘いものは滅多に口にしない私ですが、この夜は違いました。
執筆を終えた夜、自分へのご褒美気分で辛口の白ワインを口に含み、ブラウン色のクッキーを頬張ると、不思議な〝化学反応〟が起きたのです。
「アーモンドプラリネ」。生地にラム酒が沁み込んだ、やや苦みを帯びた濃厚な食感。口の中で転がすと、脳裏に幼い頃の縁日の光景が浮かんで来る気がしました。セルロイドの風車に、原色の風船、金魚すくい、アセチレンランプ、そして浴衣姿の両親と弟の姿……。
「少し酔ったのかな?」
いや、違います。呑兵衛オヤジがこの程度で酔うはずがない。
フランスの作家、プルーストの小説「失われた時を求めて」の冒頭。主人公が、紅茶に浸したマドレーヌの香りを嗅いだ瞬間、過去の思い出がまざまざと甦って来るシーンは有名です。精神分析学でも味覚、嗅覚と記憶の関係の研究はありますが、「こういうことか」と納得。日頃はチータラやイカの燻製が「ワインの友」なのですが、この日のクッキーは何だか妙に懐かしい。独特の口どけと、微妙な味のバラツキ。お袋が昔、作ってくれたクッキーの香りが立ち上る気がします。
そして、ココア、はちみつレモン、メイプル。気が付けば4種類の焼き菓子をつまみに、ボトル1本を空けてしまいました。何とも幸せな夜の祝祭です。
「ワインの友」となったお菓子を作っているのが、のびのび作業所フーズ(東京・江東)と知ったのは数日後のことです。
「人間らしい個性」に目覚める
sweet heart project 実行委員会事務局へ納品に来た保田さん。国際的に活躍するダウン症の書家、金沢翔子さんの書が大好きです